Systematicsについて
1)Classification(分類)とSystematics(体系)
楽器の分類は古代から世界の諸民族の間で行われ、その方法は100種類にも及ぶ程である。分類の語意は「種類に よって分けること」あるいは「区分を徹底的に行い、事物またはその認識を整頓し、体系づけること」[広辞苑、新村 出編]となっている。本来、分類学は生 物学の一分野として生まれたものであることは周知の通りである。地球上に如何に多様な生物が存在しようとも、其れ等は凡て宇宙の一貫した法則の中で生存し ているものであるから、その原理に基づいて区分し体系づけることは論理的に可能である。
これに対して楽器は音を出すという人間の行為に従属する 単なる道具であって、“それを用いて音楽を行うことができる”という唯一の条件を満たしさえすれば如何なるものでも対象となり得る。言い替えれば楽器と称 される一群のものは上記の条件以外には何の共通性も持たない雑多な物体の集合であると言うことができる。
ここで更に留意しなければならないのは、分類とは既存のものに対して行われる行為であるということである。
古来楽器は人間の持つ音の理想像に導かれながら生まれ、育てられてきたもので、世界の楽器を跳望した時、人々が理想とする音を得るための手段は無限であ り、人問の音に対する欲求が続く限り今後も絶えず新しい楽器が出現する可能性を持っていることが大いに推測されるのである。また一方、民族学を始めとする 諸学問の分野が拡充した今日に於ても尚、世界中の凡ての楽器が余すところなく把握されているとは言い難い。
このことから楽器を形状や材料等で「徹底的に区分し体系づけること」即ち分類すること(Classification)が不可能であることは明らかである。
これに対して宇宙の物理現象の一つである「音」に関わる諸現象に基づいて楽器を観察し、分類することは不可能ではなく、過去に行われた分類法の中でもこれ に近い方法を用いたものはある程度の成果をあげており、その一例としてはThe Classification System of Hornbostel and Sachsがあげられよう。
2)本目録に採用した体系づけ(Systematics)
本目録では楽器の音が生成される際の諸要因の中から重要と思われる7項目を採り上げ、各項目毎に理論的に可能な事例を設けることによって体系的(Systematic)な枠組みを作り、個々の楽器をその中に当てはめるという方法を用いた。
この方法(Systematics)が既存の楽器はもとより今後出現する如何なる楽器にも対応し得ることを願うものである。
各項目とその定義
I. 振動体の形状
- 立体(Massa)
三方向に拡がりを持つ物体(three-dimensional)で、主に縦波振動(longitudinal vibrations)を起こす。 - 空洞の立体(Cupa)
内部に空洞を持つ立体で、主に横波振動(transverse vibrations)を起こす。 - 棒(Clava)
一方向に拡がりを持つ物体(one-dimensional)で、断面が円または正多角形であるものを指す。起振運動は長さに対して直角方向にはたらき、主として横波振動を起こす。 - 板(Tabula)
二方向に際立った拡がりを示す物体(two-dimensional)で、起振運動は広い面に対して直角方向に働き、主として横波振動を起こす。 - 弦(Chorda)
一方向に際立った拡がりを示す物体(one-dimensional)であるが、長さに対して断面の径が著しく小さく、引っ張る力を加えて緊張させなければ直線にならず、弾力も生じない。起振運動は長さ方向に対して直角方向に働き、主として横波振動を起こす。 - 膜(Membrana)
二方向に際立った拡がりを示し面積に対して厚みが著しく小さいため、引っ張る力を加えて緊張させなければ平面にならず、弾力も生じない。起振運動は平面に対して直角方向に働き、主として横波振動を起こす。
II. 振動体の材料
- 人体の一部
- 植物・・木、竹、麻、瓢箪、木の実等
- 動物・・皮、骨、繭、絹、甲殻等
- 鉱物・・金属、石、土等
- 気体・・空気、ガス
- 液体・・水、油等
- 合成物質・・樹脂等
III. 起振現象
- 衝撃(Percussion)
二つの物体が衝突し、双方の弾力によって再び相反する方向に離れた後に振動が起こる現象を言う。 - 摩擦(Friction)
二つの物体が圧力を以って接触し、両者が相対的に移動した時に生じる摩擦によって振動が起こる現象を言う。 - はじく(Plucking)
振動体の一部にある方向を持った力を加えて歪みを起こし、それが開放された時、その歪みによって蓄積された内部応力が原動力となって振動が起きる現象を言う。 - 気流による起振(Air current)
気流によって生じる気体の密度・圧力の変化によって振動体に振動が起きる現象を言う。 - 電気による起振(Electronic oscillation)
振動体の振動が電気的に起こされる場合を言う。
IV. 起振方法
- 直接的起振
奏者の体の一部が直接振動体に触れる。 - 間接的起振
奏者と振動体とは直接触れ合わず、体の一部の延長としての役目を果たす物体が奏者と振動体との間に介在する。 - 器械的起振
奏者の演奏動作は器械装置によって別の作動に置き換えられる。
V. 振動の転換
- 振動体の振動が他に転換されない。
- 振動体の振動は共鳴によって他に転換される。
- 振動体の振動は強制振動によって他に転換される。
- 振動体の振動は電気振動に転換される。
VI. 転換部の形状
- 立体(Massa)
- 空洞の立体(Cupa)
- 板(Tabula)
- 膜(Membrana)
- 弦(Chorda)
- 棒(Clava)
VII. 転換部の材料
- 人体の一部
- 植物
- 動物
- 鉱物
- 気体
- 液体
- 合成物質
I. 振動体の形状 |
II. 振動体の材料 |
III. 起振現象 |
IV. 起振方法 |
V. 振動の転換 |
VI. 転換部の形状 |
VII. 転換部の材料 |
1 立体 | 1 人体の一部 | 1 衝撃 | 1 直接 | 1 無し | 1 立体 | 1 人体の一部 |
2 空洞の立体 | 2 植物 | 2 摩擦 | 2 間接 | 2 共鳴 | 2 空洞の立体 | 2 植物 |
3 棒 | 3 動物 | 3 はじく | 3 器械 | 3 強制 | 3 板 | 3 動物 |
4 板 | 4 鉱物 | 4 気流 | 4 電気 | 4 膜 | 4 鉱物 | |
5 弦 | 5 気体 | 5 電気 | 5 弦 | 5 気体 | ||
6 膜 | 6 液体 | 6 棒 | 6 液体 | |||
7 合成物質 | 7 合成物質 |